日本白内障学会
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白内障の診断

1.白内障とは

白内障とは、瞳の奥にある水晶体(眼の中では、ピントを合わせるレンズの役目をする部分)が濁る病気です。症状は、雲がかかったようにかすんだり、眩しくなったり、だぶって見えたりします。

一度濁ってしまった水晶体は目薬や飲み薬では元に戻せません。放置すると視力低下が進行します。白内障に用いられる薬はありますが、進行を抑制する目的で用いられているもので、視力を元に戻す効果はありません。視力を回復させるためには手術が必要です。

手術は、水晶体を取り囲む外側の透明な袋(水晶体嚢)を残して、中の濁りを超音波で砕いて取り除き、代わりに人工の眼内レンズを残してある水晶体嚢の中に挿入します。

2.白内障の頻度は

白内障の中で最も多いのは加齢白内障といいます。特別な原因がなくても年齢とともに誰にでも起こります。本邦における初期混濁も含めた水晶体混濁有所見率は50歳代で3754%60歳代で6683%70歳代で8497%80歳以上では100%、日本白内障疫学研究班分類で程度2以上の進行した水晶体混濁の有所見率は50歳代で1013%60歳代で2633%70歳代で5160%80歳以上では6783% と報告されています。(白内障学会ガイドラインより)

この中で手術を必要とするほど視力が低下する割合は、65~74歳ではほぼ5人に1人、75歳以上では2人に1人といわれています。片方の眼に起こるといずれもう片方の眼も白内障になる可能性が高くなります。両方の眼が同時に白内障になる場合もあります。

3.白内障を症状から診断すると

■かすんで見える 
白内障の一般的な症状は「雲がかかったようにかすんで、物がはっきり見えない」というものです。頻度が最も多い皮質白内障というタイプでは周りから瞳の中に向かってまだらに濁ってきます。そのため濁りのすき間から見ている状態になり、「何となく見えにくい」「ピントがあいにくい」という症状からはじまります。白内障が進行すると水晶体全体に濁りが及んできて徐々に視力も低下し、最後は明暗のみがわかる程度にまで見えなくなります(成熟白内障)。

■まぶしくなる
水晶体の濁りが瞳の中にかかると、外からの光がその部分でいろいろな方向に散ってしまいます。そのため光の強い屋外や逆光では、まぶしさが増しサングラスや日差しよけの帽子が手離せなくなります。特に夜間の運転では対向車のヘッドライトがハレーションを起こして見えなくなり危険を伴うこともあります。特に後嚢下白内障というタイプでは日中にはまぶしさで見にくく、曇りや雨の日、室内では見えやすくなるという特徴があります。

■近くが見やすくなる
水晶体の真ん中が濁る核白内障では、近視の傾向が少し出てきて、眼鏡なしでも近くが見えるようになり、老眼が治ったように感じることもあります。これも白内障の進行に伴ってしばらくするとかすむ症状が強くなってきます。

■二重、三重に見える
核白内障のもう一つの症状に、「月がいくつにも見える」というように物が2つにも3つにも見えるようになることがあります。この場合、白内障のある片眼だけで見た時に、だぶって見えるのが特徴です。

■眼の痛みや充血はない
水晶体には神経や血管がないため、白内障だけでは痛みや充血はありません。

4.白内障とは関係のない症状

「物が歪んで見える」、「物を見ようとすると中心が黒くなって見えない」という症状は眼底の黄斑部という物を見るのに一番大切な網膜の病気です。黄斑部の病気には、加齢性黄斑変性症、黄斑円孔、黄斑上膜、糖尿病黄斑症などがあります。

「カーテンが垂れ下がった様に、周りから視野が徐々に欠けてくる」症状は網膜剥離が疑われ緊急で手術が必要となる病気です。「真ん中は見えるがその上下の視野に帯状に欠けて見えないところがある」、「鼻側の視野が欠けてみえる」などの症状は緑内障ですが初期では症状を自覚することは稀です。

5.白内障を診断するために必要な検査は

■屈折検査
遠くの見え方と近くの見え方を調べる視力の検査です。白内障で見えないと思っていても、実はメガネが合っていないこともあります。普段使っているメガネの度数とメガネを使用している時の視力も調べる必要があります。また度数をあわせたメガネが頻繁に合わないと感じる場合には核白内障が原因のこともあります。

■眼圧検査
眼には眼圧という一定の圧力があり10~20mmHgという値が正常です。白内障では眼圧には異常ないことが多いのですが、白内障が進行して見えない状態が続くと、眼圧が高くなり眼痛、頭痛、吐き気などの緑内障発作症状を起こすことがあります。白内障だからといってほとんど見えない状態で長く放っておくのは良くありません。

■散瞳検査
瞳を開く目薬をつけて眼の奥を詳しく調べるために行います。散瞳すると元に戻るのに4~5時間はかかり、その間はぼやけて見え難くなりますので車の運転はひかえてください。緑内障でピロカルピンという瞳を小さくする薬を使っている方、眼の炎症の既往のある方、加齢による水晶体偽落屑症候群という状態がある方などでは散瞳不良例といって、瞳の開きが悪いことがあります。

十分に散瞳すれば手術も行いやすいのですが、散瞳不良例では手術が難しくなり特別な術式が必要となります(難症例白内障手術)。

■細隙灯顕微鏡検査
眼の中の組織を顕微鏡で拡大して診る検査です。白内障の濁りの程度や部位、手術が易しいか難しいかも分かります。白内障が進行して水晶体の濁りが強くなると、核と呼ばれる中心部の色が黄白色や黄色から褐色、黒褐色へと変わってきます。色の変化に一致して核の硬さも、例えば黄色では寒天、褐色では栗、黒褐色では石ころの硬さ、というように硬くなります。黄色のような軟らかい硬さの核では手術は容易ですが、褐色のような硬い核では合併症も起こりやすく手術が難しくなり特別な手技や術式が必要となります(難症例白内障手術)。白内障が進行すると核が硬くなり難しくなりますので、手術が怖いからと言って我慢して見えない状態を長く放っておくのは余り良くありません。

また水晶体は周りの壁にチン小帯という細い糸で支えられています。歳をとると歯がぐらぐらして抜けると同じように、チン小帯も歳とともに弱くなることがあります(チン小帯脆弱、チン小帯断裂)。チン小帯断裂が強いと、水晶体がずれてしまい、術前の細隙燈顕微鏡検査で分かります(水晶体脱臼)。

チン小帯が健常か弱いかは術前に分かることもありますし、手術中に初めて気づくこともあります。術前から分かる場合でも術中に気づく場合でも、チン小帯の脆弱や断裂がある眼では手術が難しくなり特別な器具を用いて行います(難症例白内障手術)。

細隙燈顕微鏡で検査して核が極度に硬い黒褐色の白内障水晶体のずれが大きい場合には、白内障をまるごと大きな切開から取り出す術式(水晶体全摘出術)を用い、眼内レンズは眼の壁に縫い付けて固定することを行います(眼内レンズ縫着術)。

■眼底検査
白内障を手術して良く見えるようになるかどうかは、手術の前に眼底検査をして白内障以外の病気がないことを調べる必要があります。

緑内障、糖尿病網膜症、網膜剥離、網膜静脈閉塞症、黄斑変性症、黄斑上膜、黄斑円孔、網膜色素変性症網脈絡膜萎縮、ぶどう膜炎、強度近視、弱視、などの併発症がないか調べます。これらの併発症があると白内障は手術でよくなっても十分に視力が回復しないことがあります。また、手術前では眼底検査を行っても白内障が邪魔をして網膜の病気を発見することができず、手術後に見つかることもあります。

■網膜電図(ERG)検査
成熟白内障で水晶体全体が濁っている場合には眼底検査はできません。白内障を手術して見えるようになるかどうか、つまり網膜の機能が正常であるかを大まかに調べるのがERG検査です。強いフラッシュの光を眼にあてて網膜の反応を波形でみます。

白内障がどんなに進んでも強い光は通すため網膜が正常であれば波形もほぼ正常にでます。全体の機能が悪い場合、たとえば網膜剥離、広範囲な網膜出血、網膜色素変性症などでは波形は弱くなるか、または反応がなく平坦化します。ERG検査で反応が悪い場合の白内障手術は、視力を回復させる目的ではなく、網膜の病気を検査できるようにするために行います。

【成熟白内障のERG検査】
上段(R)は成熟白内障のある右眼、下段(L)は白内障のない反対側の左眼のERG波形をしめす。 左右とも同様の網膜からの反応の波形があり右眼白内障を手術した場合に視力の回復が見込まれる。

【成熟白内障と網膜剥離のERG検査】
上段(R)は成熟白内障のある右眼、下段(L)は白内障のない反対側の左眼の波形をしめす。 右では網膜からの反応の波形が無く平坦化している。右眼には網膜剝離などの存在が疑われる。手術は眼底を検査で観察できるようにする目的でおこなうもので視力の回復は見込まれない。

■眼内レンズの度数を決めるための検査
眼の中に挿入する眼内レンズにもメガネと同じようにいろいろな度数があります。メガネを合わせるように手術中に見える、見えないで度数を選ぶわけにはいきませんので、手術前に角膜の屈折力と眼の長さ(眼軸長) を超音波で計測して眼内レンズの度数を計算してあらかじめ決めます。

■角膜内皮細胞検査
眼の表面には0.5mmほどの厚さを持つ角膜という透明な膜があります。角膜の裏側には角膜内皮細胞という 六角形の細胞が一層あります。内皮細胞は、ぶどう膜炎、レーザー虹彩切開術後、外傷、虹彩前癒着、角膜内 皮変性症、内眼手術の既往などが原因で障害を受けると元通りの大きさの細胞を作り出すことはできないとい う特徴があります。何らかの原因で一度障害を受けると周りの健常な内皮細胞が細胞の面積を広げて傷を覆う という治り方をします。

たとえば1mm四方の中に2700~3000個の細胞があれば正常ですが、障害をうけた後 では2000個、1500個、1000個と数が減ってきます(角膜内皮障害)。ある程度まで数が減ったとしても見た目 には角膜は透明で何も変わったことは起こりません。しかし300~500個まで減少すると透明に保つ力が失わ れて角膜は濁ってきます(水疱性角膜症性)。この場合には角膜移植が必要となります。

白内障の手術では約5 ~10%の角膜内皮細胞減少をおこしますので、術前の細胞数があまりにも少ないと術後に水疱性角膜症性で見 えなくなることも予想されます。一般的には1000個以上あれば安全に手術ができるといわれています。

6、終わりに
白内障の手術は安全で簡単にできるといわれていますが、実は眼の中の狭い空間で行われる大変繊細な手術です。散瞳が良く、軟らかい核の白内障では10~20分程度の手術時間で終わりますが、硬い核、散瞳不良、チン小帯脆弱、角膜内皮障害などいわゆる難症例では1時間ほどかかることもありますし、特別な技術も必要とします。

一言に白内障の手術といっても短時間でできる眼もあれば高度の手技を必要とする眼までさまざまです。眼科を受診してご自身の眼がどのような状態にあるかの説明を受けてください。難症例の場合には白内障専門医の受診をお勧めします。

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