CATARACT × CLIMATE

日本白内障学会での
研究紹介

暑さは、白内障や老視(老眼)のリスクとどう関わるのか

日本白内障学会 × 水晶体研究会 共同企画

地球温暖化が進むなか、「暑さ」は私たちの目にどんな影響を与えるのでしょうか。この共同企画では、環境の温度が白内障老視のリスクにどう関わるのかを、大規模な調査コンピュータでのシミュレーション細胞レベルの実験という3つの角度から研究しています。ここでは、その成果をまとめた9つの論文をやさしくご紹介します。
論文 2

目の濁りは、どのくらいの人に起きている?

年をとると、目の中でレンズの役目をする「水晶体」の中心が濁ってくることがあります(核白内障)。この研究では、たくさんの高齢者のデータをコンピュータのモデルにあてはめ、年齢とともにどのくらいの割合で濁りが進むのかを数字で描き出しました。

年齢が上がるほど濁りの割合が増える様子をモデルでうまく再現でき、その背景に「目の中の温度」が関わっている可能性が見えてきました。あとに続く研究の出発点になった一報です。

出典:Kodera S 他. Comput Biol Med 2020; 126: 104009.

論文 4

紫外線と「目の中の暑さ」は、白内障とつながっている?(5都市をくらべて)

気候のちがう5つの都市をくらべて、紫外線の量と、目の中にたまる熱(熱負荷)が、白内障の多さとどう関係するかを調べました。

気温が高い地域ほど白内障が多い傾向がみられ、日ざし(紫外線)だけでなく、目の中の温度そのものもリスクに関わっているらしい、ということが地域差から示されました。

出典:Kinoshita K 他. Environ Sci Pollut Res Int 2023; 30(59): 123832–123842.

論文 9

熱中症にかかると、白内障になりやすい? — 全国データで確かめる

日本全国の医療データ(健康保険の診療記録)を使った大規模な解析で、熱中症にかかったことがある人は、その後に白内障(とくに核白内障)になりやすいかどうかを調べました。

熱中症にかかったことがある人は、白内障になるリスクが高いことが全国規模で確かめられました(白内障全体でおよそ2倍)。とくに若い世代で関連が強く、強い暑さによる体への負担(熱ストレス)が、目のレンズの老化を早めている可能性が示されました。

出典:Takayama Y 他. Environ Res 2026; 292: 123680.

論文 1

高温の環境では、目の細胞の増殖や老化が進む

目の中のレンズ「水晶体」は、実は体の中でもひんやりした場所です。そこで、水晶体の細胞を、ふだんよりも高い温度の環境に置いたときに、細胞のふるまいがどう変わるかを調べました。

高い温度では、水晶体の細胞の増殖が速まり、老化の方向へ進みやすくなることがわかりました。あわせて、水晶体の透明さを支えるたんぱく質や、白内障で増えるとされる物質も増えました。長く暑さにさらされることが、白内障のリスクになりうると示唆した一報です。

出典:Yamamoto N 他. Cells 2020; 9(12): 2670.

論文 5

暑いと、細胞の「エネルギー工場」が活発になる

ヒトの水晶体の細胞を暑い環境に置いたときに、細胞のエネルギーをつくる「ミトコンドリア」の働きがどう変わるかを調べました。

温度が高いと、ミトコンドリアでエネルギーをつくる酵素(COX)の働きが活発になりました。暑さが、細胞のエネルギーのつくり方そのものを変えていることが示されました。

出典:Takeda S 他. Mol Med Rep 2023; 27(1): 19.

論文 3

平熱が高めの人は、水晶体のエネルギーづくりが活発?

細胞は「ATP」という物質をつくってエネルギーとして使っています。この研究では、白内障手術のときに採取したヒトの水晶体の細胞を調べ、その人の平熱(体温)の高さによって、細胞のエネルギーづくりに違いがあるかを比べました。

平熱が36.5℃以上のヒトでは、水晶体の細胞でミトコンドリアのはたらきを担う酵素(MTCO)の量と、エネルギー物質ATPの量が、はっきりと多いことがわかりました。体温が高めだと水晶体のエネルギーづくりが活発になっており、これが核白内障の発症に関わっている可能性が示された一報です。

出典:武田 他. 白内障学会誌 2022; 34: 76–82.

論文 7

高温にさらされた水晶体で、たんぱく質はどう変わる?(ラットでの実験)

ラットの水晶体を高い温度の環境に置いて、その中のたくさんのたんぱく質を一度にまとめて調べる手法(プロテオミクス)で、どのたんぱく質が増えたり減ったりするかを解析しました。

高温にさらされることで、状態が変化するたんぱく質がいくつも見つかりました。暑さが水晶体のたんぱく質のバランスを変えていく様子が、生体に近い条件で示されました。

出典:Otake H 他. Mol Med Rep 2025; 31(1): 26.

論文 8

高温にさらされた水晶体で、たんぱく質はどう変わる?(ヒトの細胞での確認実験)

ラットでわかったことを、今度はヒト由来の水晶体の細胞で調べた研究です。同じくたくさんのたんぱく質をまとめて調べる手法を使い、高温にさらしたときの変化を確かめました。

ヒトの細胞でも、高温にさらされることでたんぱく質のでき方が変わることが確認できました。動物で見られた変化がヒトでも起こりうることが示され、研究が一歩前へ進みました。

出典:Otake H 他. Medicina (Kaunas) 2025; 61(2): 286.

論文 6

暑さが「老視」を引き起こす?

高い気温が目にどう作用して老視につながるのか、その仕組みを調べました。

高い温度が、熱を感じとるセンサー(TRPV1というたんぱく質)のスイッチを入れ、それが老視を引き起こすきっかけになりうることがわかりました。暑さの影響を、白内障だけでなく老視にも広げて捉えた研究です。

出典:Nakazawa Y 他. Med Mol Morphol 2024; 57(4): 268–276.