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水晶体イオンバランス制御機構と透明性維持
 水晶体は形態的に上皮細胞層を有する“前部皮質(anterior cortex)”、線維細胞のみの“後部皮質(posterior cortex)”、そして細胞の核が消失(脱核)して、それが水晶体の中心に向かって押し込められることで形成される“水晶体核”の3つの部分に分類することができます。これら水晶体は血管を持たず、その栄養(イオンなど)は房水から得ており、ヒトにおける皮質水晶体では、主たるイオンであるNa+、K+およびCa2+はそれぞれ、約1 mg/g D.W.、6 mg/g D.W.、0.1 g/g D.W.と報告されています。
 他の組織と同様、水晶体でもこれらイオンのバランスは、イオンレベルを細胞内性に保持するための能動輸送系酵素であるATPaseや各種のイオンチャネルによって制御されています。しかし、活性酸素種などによる過剰な酸化的刺激が続くといった“なんらかの引き金”により水晶体に異常が引き起こされると、細胞内性であった陽イオンレベルの変動(Na+やCa2+は上昇し、K+は低下する)や、各種代謝物質の増加・現象が生じて、最終的にはタンパク質の不溶化現象や混濁が引き起こされます。
 では、これら水晶体でのイオンバランスはどのように崩壊するのでしょうか?1つは酸化的刺激によってATPaseのSH基が酸化され、基剤であるATPが十分存在してもNa+、K+-ATPaseやCa2+-ATPaseが作動しなくなることが知られています。また、最近の研究では、酸化的刺激がミトコンドリア障害を引き起こし、ATPが枯渇することも要因と考えられています。さらに、酸化的刺激に起因する“なんらかの引き金”としては、昔から加齢にともなう抗酸化物質(グルタチオンなど)の低下が知られており、近年では水晶体における終末糖化産物(AGEs)やアミロイドβの蓄積とそれにともなう一酸化窒素の過剰産生が注目されています。日本白内障学会の会員は、超高齢化社会を迎える我が国における“Quality of Vision”の向上を使命とし、これら活性酸素種の発生要因の解明はもちろん、活性酸素種の効果的な抑制方法に関する生体物質、薬物、サプリメントなどについても積極的に模索し、白内障発症の遅延が期待できる物質候補をいくつも世に発信しています。
 日本白内障学会では、他分野で用いられている抗酸化物質のリポジショニングや白内障・水晶体研究に興味をもつ研究者らとの共同研究の橋渡しを行っております。興味を持たれた方は、学会事務局までご連絡ください。
参考資料
Miyata Y, Tatsuzaki J, Yang J, Kosano H. Potential Therapeutic Agents, Polymethoxylated Flavones Isolated from Kaempferia parviflora for Cataract Prevention through Inhibition of Matrix Metalloproteinases-9 in Lens Epithelial Cells. Biol Pharm Bull. 42: 1-7, 2019.

Chhunchha B, Fatma N, Kubo E, Rai P, Singh SP, Singh DP. Curcumin abates hypoxia-induced oxidative stress based-ER stress-mediated cell death in mouse hippocampal cells (HT22) by controlling Prdx6 and NF-κB regulation. Am J Physiol Cell Physiol. 304: C636-C655, 2013.

Nakazawa Y, Nagai N, Ishimori N, Oguchi J, Tamura H. Administration of antioxidant compounds affects the lens chaperone activity and prevents the onset of cataracts. Biomed Pharmacother. 95: 137-143, 2017.

Nagai N, Mano Y, Otake H, Shibata T, Kubo E, Sasaki H. Amyloid β1-43 Accumulates in the Lens Epithelium of Cortical Opacification in Japanese Patients. Invest Ophthalmol Vis Sci. 58: 3294-3302, 2017.
 
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